環状シロキサン

環状シロキサンは、シリコーン材料の製造・加工過程などで生成・残留することがある低分子シロキサンの一群です。特にD4・D5・D6と呼ばれる化合物は、EUの化学物質規制において管理対象となっており、用途や濃度によっては上市・使用に制限があります

一方で、D4・D5・D6の規制は、すべてのシリコーン材料や半導体材料を一律に対象とするものではありません。REACHでは、SVHC(高懸念物質)としての位置付けと、Annex XVII(附属書XVII)による制限を分けて考える必要があります。また、2024年の改正ではシリコーンポリマー製造などの工業用途について一定の例外も設けられています。

本記事では、環状シロキサンの基本構造からD4・D5・D6の規制、半導体・電子材料における低分子シロキサン管理、分析方法、精製・低減方法までを整理します。フォトレジスト、封止材、シリコーンオイルなどの材料を扱う際に、規制対応と品質管理を切り分けて検討するための基礎情報を解説します。

環状シロキサンとは?基本構造と発生要因

シロキサン結合と環状構造の特徴

環状シロキサンは、ケイ素(Si)と酸素(O)が交互に結合したシロキサン骨格が環状につながった化合物です。環を構成するシロキサン単位の数を「D」の後の数字で表し、D3、D4、D5、D6などの名称が使われます。

代表的なD4・D5・D6は、それぞれオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンです。D3からD6へと環を構成する単位数が増えると、一般に沸点も高くなる傾向があります

実際の分析や品質管理ではD4~D6だけでなく、用途や顧客仕様によってD3やD7以降を対象とする場合があります。ただし、どの成分まで評価するかは、材料の組成や用途、要求される品質基準によって異なります

なぜシリコーン材料に環状シロキサンが残留するのか

シリコーンポリマーの製造過程では、反応条件や材料系によって低分子の環状シロキサンが生成し、最終製品や原料中に残留することがあります。そのため、シリコーン材料では、必要に応じて脱揮や精製によって低分子成分を低減します。

環状シロキサンの低減では、単純に加熱すればよいとは限りません。シロキサン系材料では、温度や触媒、組成などの条件によって化学平衡や反応が変化し、熱処理中に低分子環状シロキサンが再生成・増加する場合があります。そのため、目標濃度まで低減するには、材料ごとに温度、圧力、滞留時間などを検討する必要があります。

環状シロキサン(D4・D5・D6)を取り巻くREACH規制

SVHC指定と使用・上市制限は別に考える

EUでは、D4・D5・D6がREACHのSVHC(Substances of Very High Concern:高懸念物質)としてCandidate Listに収載されています。ECHAのCandidate Listでは、D4についてPBTおよびvPvB、D5についてPBTおよびvPvB、D6についても所定の条件のもとでPBT・vPvBに関する位置付けが示されています。D4・D5・D6のCandidate Listへの収載は2018年です

ただし、SVHCとしてCandidate Listに収載されていることと、REACHによって一律に使用・上市が禁止されることは同じではありません。SVHCには情報伝達などの義務が関係する一方、具体的な上市・使用制限はREACHのAnnex XVIIなど別の規定によって定められます。

2024/1328によるD4・D5・D6の制限拡大

欧州委員会は2024年5月、REACH Annex XVIIのEntry 70を改正する委員会規則(EU)2024/1328を公布しました。この改正では、D4・D5・D6について、原則として2026年6月6日以降、単体、他の物質の構成成分、または混合物中にそれぞれ0.1重量%以上含まれる場合の上市を制限しています

また、D4・D5については洗い流す化粧品への従来の制限が設けられており、ドライクリーニング溶剤としての使用についても制限があります。化粧品、医療機器、医薬品などについては用途に応じた経過措置も規定されています

シリコーンポリマー製造などには例外がある

2024/1328の重要なポイントは、D4・D5・D6をすべての工業用途で一律に禁止しているわけではないことです。規則では、シリコーンポリマー製造におけるモノマー、他のケイ素物質の製造における中間体、重合におけるモノマー、混合物の調合・再包装、物品製造、非金属表面処理などについて、一定の条件のもとで上市制限の適用除外が定められています。

そのため、半導体・電子材料に関してREACHへの対応を検討する場合も、「D4・D5・D6が含まれているか」だけで判断するのではなく、物質または混合物の形態、濃度、用途、EU域内での上市・使用形態などを確認することが重要です

つまり、D4・D5・D6については「REACHで規制されているから半導体材料では使用できない」と単純化するのは適切ではありません。規制の直接適用と、顧客仕様・品質保証を目的とした自主的な低濃度化は分けて考える必要があります。

日本の化審法における位置付け

日本では、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)に基づいて化学物質が管理されています。D4およびD6については監視化学物質として扱われています

監視化学物質であることは、それ自体が一般的な使用禁止を意味するものではありません。製造・輸入数量の把握など、化審法上の管理制度との関係を確認する必要があります。実際の取扱いについては、対象物質の区分や用途、製造・輸入形態に応じて最新の法令・行政資料を確認することが重要です。

なお、D4・D5・D6はEU RoHS指令の現在の制限物質リストに含まれる物質ではありません。そのため、「D4・D5・D6はRoHS対象物質である」とする説明は適切ではありません。一方、電子材料メーカーや部品メーカーが独自の含有化学物質管理基準を設け、顧客から分析データの提出を求めるケースはあり得るため、法規制と顧客仕様は区別して確認する必要があります。

半導体・電子材料における環状シロキサンの品質管理

シリコーン系材料における揮発・移行への対応

シリコーン系の封止材、接着剤、オイルなどに低分子シロキサンが残留している場合、加熱工程などで揮発・移行する可能性があります。用途によっては、揮発成分によるアウトガス、周辺部材への移行、表面汚染などが品質管理上の問題となることがあります

特に電子材料では、材料そのものの物性だけでなく、加熱工程や真空工程でどの程度の揮発成分が放出されるかを確認することが重要です。ただし、影響の大きさは材料組成、低分子成分の濃度、工程温度、時間、周囲環境などによって異なります。

フォトレジスト材料については対象を限定して考える

フォトレジストは多様な組成の材料群であり、フォトレジスト全般をシリコーン系材料として扱うことはできません。一方、シリコーン系材料やシロキサン構造を含む特定の電子材料では、低分子シロキサンやその他の揮発性成分が工程環境に与える影響を考慮する必要があります。

したがって、フォトレジストについて環状シロキサンの影響を評価する場合は、「フォトレジスト全般」ではなく、対象製品の組成やシリコーン系成分の有無を確認したうえで評価することが適切です

シロキサン系分子汚染と半導体製造工程

半導体製造工程では、シロキサン系の揮発性成分が工程環境へ移行し、光学部材などに付着する分子汚染が問題となる場合があります。特にリソグラフィー工程では、光学面への分子汚染や、その後の光化学反応によってシリカ系の堆積物が形成され、光学特性に影響する現象が報告されています

ただし、こうした汚染源をD4・D5・D6だけに限定することは適切ではありません。シロキサン系材料、シラン系材料、その他の揮発性成分など、複数の化学物質が工程汚染源となる可能性があります。

そのため、半導体工程における環状シロキサン管理では、「D4・D5・D6が規制対象だから除去する」という考え方だけでなく、工程環境へのアウトガスや分子汚染を抑制するために、材料から放出される揮発性成分を総合的に管理するという視点が重要です

環状シロキサンの分析・定量評価方法

HS-GC/MSによる揮発性成分の評価

環状シロキサンの分析には、ガスクロマトグラフィー(GC)を利用した方法が用いられます。試料の種類や目的によっては、ヘッドスペースGC/MS(HS-GC/MS)によって試料から揮発する成分を分析し、D3、D4、D5、D6などを定量する方法があります。

HS-GC/MSでは、試料を一定条件で加熱して気相へ移行した成分を分析します。ただし、実際の定量下限や再現性は、試料マトリックス、前処理、装置条件、検量線、ブランク管理などに左右されます。「ppmまで測定できる」と一律に判断するのではなく、対象材料について実際の分析法と定量下限を確認することが重要です

D3~D20など、分析対象範囲を事前に確認する

品質保証の目的によっては、D4~D6だけでなく、D3やD7以降の環状シロキサンを含めて評価する場合があります。D3~D20など広い範囲を分析対象とすることも技術的には可能ですが、対象成分が増えるほど、分析条件や定量下限、標準品、分離条件などの確認が重要になります

そのため、分析委託先を選定する際は「D3~D20を測定できるか」だけでなく、どの成分を対象とするのか、使用する分析法は何か、各成分の定量下限はいくつか、精製前後を同じ条件で比較できるか、といった点を確認するとよいでしょう。

環状シロキサンを低減する精製・脱揮方法

成形後の二次加硫・熱処理による低減

シリコーン成形品では、成形後に追加の加熱処理を行い、揮発性の低分子成分を低減する方法があります。いわゆる二次加硫・ポストキュアは、シリコーン製品の硬化や揮発成分の低減を目的として利用される場合があります。

ただし、これは成形後の製品を対象とした処理です。厚みのある製品では内部から表面まで成分が拡散する必要があるため、製品形状や材質によって処理条件が変わります。また、過度な熱履歴は材料の変質につながる可能性があるため、温度と時間の設定が重要です。

さらに、シロキサン系材料では熱処理条件によって低分子環状シロキサンが再生成・増加する可能性があります。そのため、「加熱時間を長くすれば必ず低分子シロキサンが減少する」とは限らず、材料ごとの検証が必要です

薄膜蒸留などによる原料段階での低減

液状のシリコーン原料や中間体では、成形前の段階で蒸留などの分離操作を行い、揮発性の低分子成分を低減する方法があります。

薄膜蒸留では、液体を薄い膜状に広げ、加熱と減圧を組み合わせることで、揮発度の差を利用して成分を分離します。短い滞留時間で処理できる装置構成もあり、材料への熱履歴を抑えながら揮発性成分を低減する方法として利用できます

ただし、「低沸点成分だけを完全に除去できる」と考えるのは適切ではありません。実際の分離性能は、温度、圧力、供給速度、膜厚、滞留時間、原料組成などの条件によって変化します。主成分の損失や品質変化も含めて、実際の材料を用いた検証が必要です。

再生成・副反応を考慮した条件設定

環状シロキサンの低減では、単純な沸点だけで処理条件を決めるのではなく、熱処理中に起こり得る反応や平衡も考慮する必要があります

特に、温度、圧力、滞留時間、触媒や反応性成分の残存量などによって低分子成分の生成挙動が変わる可能性があります。そのため、精製条件を設定する際は、精製前後のD3~D6などの濃度だけでなく、必要に応じて広い分子量範囲の低分子成分を分析し、主成分の品質が維持されていることも確認することが重要です

成形後の脱揮と原料精製は目的が異なる

成形後の二次加硫・熱処理と、成形前の蒸留精製は、同じ「環状シロキサン除去」という目的に関連しますが、処理する対象と工程が異なります

どちらが優れているかを一律に判断するのではなく、材料の状態と工程上の目的に応じて適切な方法を選択することが重要です

素材特性に合った蒸留法なら
品質基準を満たせる

蒸留には、薄膜蒸留、精密蒸留、水蒸気蒸留、分留など、さまざまな蒸留手法があります。蒸留の目的や対象の化学品や溶剤によって適切な蒸留方法が異なるため、自社工場に合ったパートナーを選ぶことが非常に大切。金属イオンや残留物を基準以下に蒸留精製できないと、製品の品質やコストにも関わるからです。

そこで、本メディアでは、蒸留の目的や特性に合わせて選べる受託蒸留会社を厳選し、3社比較を掲載しています。適切なパートナー選びの参考としてぜひご活用ください。

【目的・特性別】
受託蒸留会社3選

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ここでは、蒸留の目的や素材に応じて選べる、おすすめの受託会社を3社ピックアップしました。

精密な温度管理
必要なら
中国精油
  • 熱分解しやすい機能性化学品も徹底した温度管理で蒸留精製できる薄膜蒸留設備が揃う
  • 低分子シロキサン除去など半導体・電子材料分野の実績に加え、技術アドバイザーの知見で精製レベルの向上を図れる

中国精油が得意な蒸留精製

  • 熱に弱いフォトレジスト
  • 粘度のあるシリコーン
    など
使用済み溶剤を再生
するなら
新菱
  • 揮発性の高い溶剤や脱水が必要な有機溶剤を精密蒸留により再利用できる品質に精製可能
  • 使用済み溶剤を希望の純度に調整し、再利用を促進することで廃棄コストと環境負荷の低減を両立

新菱が得意な蒸留精製

  • 揮発性の高い溶剤
  • 脱水が必要な有機溶剤
    など
脱酸・脱臭処理
必要なら
八代
  • 植物油脂の精製に特化。高真空環境での蒸留により、熱による油脂の劣化を抑えながら精製できる
  • 脱臭・脱酸処理にも対応し、化粧品・食品向けの油脂の蒸留精製と製品の品質向上にも貢献

八代が得意な蒸留精製

  • 酸化しやすい植物油脂
  • 脱臭処理が必要な油脂
    など
目的・特性別受託蒸留会社
3選