化学品や溶剤には、製造工程や原料などに由来する微量のイオン性成分が含まれることがあります。こうした成分は、一般にイオン性不純物として管理されます。陽イオンではナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)など、陰イオンでは塩化物イオン(Cl−)、硫酸イオン(SO42−)、硝酸イオン(NO3−)などが代表例です。
特に半導体や電子材料では、微量のイオン性成分や金属元素が製品の電気特性、腐食、信頼性などに影響する場合があるため、用途に応じた管理が求められます。
本記事では、イオン性不純物の発生要因や種類、品質への影響、測定方法、蒸留などによる低減技術について解説します。半導体・電子材料分野を例に、化学メーカーの品質管理・購買担当者が押さえておきたい基礎知識をまとめました。
イオン性不純物は、原料に含まれる成分だけでなく、製造・保管・充填などのさまざまな工程から混入する可能性があります。主な混入経路は次の通りです。
特に水系の材料では、溶解したイオンが品質に影響する場合があります。一方、イオンを含む粒子や析出物、コロイドなどは、ろ過によって除去できる場合があります。
そのため、イオン性不純物を管理する際には、単純に「ろ過では除去できない」と考えるのではなく、不純物が溶解したイオンとして存在しているのか、粒子・析出物として存在しているのかを把握することが重要です。
また、イオン性不純物の低減方法は材料や不純物の性質によって異なります。蒸留、イオン交換、吸着、膜分離などから、対象物質に適した方法を選択する必要があります。
半導体分野では、微量のイオン性汚染や金属元素がデバイスの電気特性や信頼性に影響する場合があります。
たとえばナトリウムなどのアルカリ金属は、半導体デバイスの絶縁膜などに取り込まれると、電荷の移動や電気特性に影響することがあります。用途や材料によっては、しきい値電圧などの特性変動につながる可能性があるため、微量元素の管理が重要です。
フォトレジストなどの半導体材料についても、金属元素やイオン性成分の管理が重要になります。レジストや現像液などの工程材料に含まれる不純物は、材料特性やプロセス条件によって、パターン形成、腐食、電気特性などに影響する場合があります。
半導体・電子材料以外の化学品でも、イオン性不純物が品質に影響するケースがあります。たとえば絶縁材料では絶縁抵抗や絶縁信頼性に、触媒では触媒によって活性低下や触媒毒化に、その他の材料では不純物の種類によって着色・変色などの品質異常につながる場合があります。
ただし、許容される不純物濃度は材料や用途、製造工程によって異なります。そのため、対象製品の要求仕様に基づいて管理値を設定することが重要です。
品質管理や購買の場面では、イオン性不純物をどのように分析・評価するかが重要になります。
代表的な分析手法の一つが、イオンクロマトグラフィー(IC)です。ICは、試料中の陰イオンや陽イオンをイオン交換などの原理によって分離し、対象イオンを定量するために利用されます。
たとえば、塩化物イオン(Cl−)、硫酸イオン(SO42−)、硝酸イオン(NO3−)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)などが分析対象になります。
測定可能な濃度範囲や検出限界は、対象イオン、試料マトリクス、前処理、カラム、装置などによって異なりますが、半導体関連材料ではppb~pptレベルの微量イオン分析が行われるケースもあります。
一方、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)は、Na、K、Ca、Fe、Cuなどの元素を高感度に測定する分析手法です。特に微量金属・元素不純物の管理に利用され、半導体関連材料ではpptレベル、場合によってはさらに低い濃度の元素分析が求められるケースがあります。
ここで注意したいのは、ICとICP-MSでは得られる情報が異なることです。
ICは「どのイオン種がどれだけ含まれているか」を調べるのに適しているのに対し、ICP-MSは「特定元素がどれだけ含まれているか」を高感度に測定する手法です。
たとえばICP-MSでナトリウム元素を検出した場合、ナトリウムの総量を評価できますが、そのナトリウムが試料中でどの化学形態・イオン種として存在しているかを直接識別する分析ではありません。
そのため、イオン性不純物と微量金属・元素不純物を区別し、目的に応じてICやICP-MSなどを使い分けることが重要です。
導電率計も、適用可能な試料では簡易的な工程管理やスクリーニングに利用できます。
ただし、導電率はイオン濃度そのものを直接測定するものではありません。導電率は、溶液中のイオンの種類や濃度、移動度、溶媒、温度などの影響を受けます。
そのため、「導電率が高い=特定のイオンが多い」と判断することはできません。また、有機溶媒では水系とは異なり、イオンの解離状態や導電性が異なるため、特に注意が必要です。
導電率を利用できる材料では、ロット間の変化や工程異常を確認する簡易的な指標として活用し、詳細なイオン種の確認にはICなどの分析を用いる、といった使い分けが適切です。
イオン性不純物の低減方法には、蒸留、イオン交換、吸着、膜分離などがあります。
ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの非揮発性の無機イオンを含む塩類は、一般的な有機溶媒などと比較して揮発しにくい性質を持ちます。
そのため、対象となる溶媒や目的成分との揮発度に十分な差がある場合には、蒸留によって目的成分を留出させ、非揮発性の不純物を残液側に濃縮・分離できる場合があります。
ただし、「イオン性不純物であれば必ず蒸留で除去できる」というわけではありません。不純物の揮発性、目的成分との相対揮発度、熱安定性、圧力条件などによって分離性能は変化します。
また、揮発性のある酸・塩基など、イオン化する成分の中には蒸留によって留出側へ移行するものもあります。そのため、蒸留による低減効果は、実際の試料を用いた検証によって確認することが重要です。
薄膜蒸留・薄膜蒸発は、原料を加熱面に薄い液膜として流し、短い滞留時間で蒸発させる技術です。装置や運転条件によって異なりますが、一般的なバッチ式蒸留と比較して短い熱履歴で処理できることが特徴の一つです。
また、減圧蒸留では系内の圧力を下げることで沸点を低下させ、常圧より低い温度で蒸留できる場合があります。
そのため、熱による分解や変質が問題となる材料では、薄膜化や減圧操作を組み合わせ、温度と滞留時間を適切に管理することが重要になります。
フォトレジストなどの材料には、組成によって熱履歴の影響を受けやすい成分が含まれる場合があります。また、シリコーン材料についても、種類や組成によって熱安定性や反応性は異なります。
過度な加熱や長時間の熱履歴によって、材料によっては分解、重合、着色、揮発成分の損失などが生じる可能性があります。
そのため、精製条件を設計する際には、温度だけでなく、真空度、滞留時間、供給量、蒸発速度、留出率などを含めて検討する必要があります。
量産前には、少量サンプルを使用して試験を行い、不純物の低減性能と製品品質の維持を両立できる条件を確認することが重要です。
試作後は、ICによる対象イオンの分析や、ICP-MSによる対象元素の分析などを精製前後で実施し、目標とする濃度まで低減できているかを確認します。
また、ラボスケールで得られた結果を量産設備へ展開する場合には、単純な処理時間だけでなく、伝熱、液膜状態、滞留時間、真空度、処理量、回収率などの違いを考慮する必要があります。
委託精製を行う場合には、こうした試験結果だけでなく、量産設備で同等の品質を安定して再現できるか、分析体制や品質保証体制が整っているかも確認しておくとよいでしょう。
イオン性不純物は、原料、水、設備、容器、製造環境などさまざまな経路から混入する可能性があります。半導体・電子材料では、微量のイオン性成分や金属元素が、材料特性、腐食、電気特性、信頼性などに影響する場合があります。
分析方法を選ぶ際には、イオン種を測定するのか、元素・金属の総量を測定するのかを明確にすることが重要です。ICは陰イオン・陽イオンなどのイオン種の分析に、ICP-MSは微量元素・金属の高感度分析に適しています。導電率は、適用可能な材料では簡易的な工程管理に利用できますが、特定のイオン濃度を直接測定する方法ではありません。
精製方法についても、すべてのイオン性不純物に蒸留が適用できるわけではありません。非揮発性の不純物と目的成分との揮発度の差を利用できる場合には、蒸留による低減が期待できますが、対象物質の物性や熱安定性、運転条件を踏まえた検証が必要です。
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蒸留対象となる材料の性質や求める純度・精度によって、必要な蒸留技術は異なります。そのため、原料の特性に合った設備やノウハウを持つ会社を選ぶことが、製品の品質・精度・純度の向上につながります。
ここでは、蒸留の目的や素材に応じて選べる、おすすめの受託会社を3社ピックアップしました。
中国精油が得意な蒸留精製
新菱が得意な蒸留精製
八代が得意な蒸留精製