加水分解性塩素の意味を、定義、全塩素との違い、加水分解性と呼ばれる理由の3点から解説します。
JIS K 1603-3では、イソシアネートの製造中に生成し、試験条件下でメタノールと反応して塩化水素を生成する有機または無機の塩素化合物を加水分解性塩素と定めています。エポキシ樹脂などでも、水分と反応して塩化水素や塩化物イオンとして遊離しやすい塩素分を指す用語として使われるのが一般的です。製品に含まれる塩素すべてを意味するわけではありません。
※参照元:kikakurui.com「JIS K 1603-3:2007 プラスチック-ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験方法-第3部:加水分解性塩素の求め方」(https://kikakurui.com/k1/K1603-3-2007-01.html)
全塩素は、分子に強く結合したものも含めた塩素の総量です。加水分解性塩素の対象は、外れやすい塩素だけに絞られます。ビスフェノール型低塩素タイプのエポキシ樹脂(YSLV-70XY)は、全塩素含有量750ppm以下、加水分解性塩素200ppm以下と別の項目で規格値を設けており、両者が別の指標であることを示しています。
※参照元:日鉄ケミカル&マテリアル「結晶性エポキシ樹脂」(https://www.nscm.nipponsteel.com/epoxy/kessho.html)
水が作用して結合が切れる加水分解によって、塩素が外れるためです。イソシアネートの製造ではホスゲンとアミンを反応させるので、カルバモイルクロライドなどの塩素含有成分が残ります。水と触れて塩化水素を放出する性質が名前の由来です。
エピクロロヒドリンやホスゲンなど、塩素を含む原料から作られる化学品に含まれます。代表的な5つの分野は次のとおりです。
エポキシ樹脂は、加水分解性塩素を含む代表的な製品です。原料のエピクロロヒドリンに由来する塩素化合物が、クロロヒドリンなどの形で樹脂中に含まれます。ビスフェノール型やハイドロキノン型、チオエーテル型といった結晶性エポキシ樹脂にも、加水分解性塩素を含む品番が複数ある例です。
※参照元:日鉄ケミカル&マテリアル「結晶性エポキシ樹脂」(https://www.nscm.nipponsteel.com/epoxy/kessho.html)
TDIやMDIなどのイソシアネートは、ホスゲン化で製造するため、塩素含有成分を含みます。芳香族に限らず、脂肪族イソシアネートも同様の塩素分を含む製品です。
半導体封止材や回路基板に使うエポキシ樹脂など、電子材料の原料にも含まれる製品です。半導体封止材の分野では低粘度化を目的に結晶性エポキシ樹脂が使われ、原料に含まれる加水分解性塩素が電子材料にも持ち込まれます。
※参照元:日鉄ケミカル&マテリアル「結晶性エポキシ樹脂」(https://www.nscm.nipponsteel.com/epoxy/kessho.html)
エポキシ系やポリウレタン系の接着剤・封止材にも含まれます。エポキシ樹脂やイソシアネートを原料にするため、原料中の加水分解性塩素が配合後の製品に持ち込まれるのが理由です。
エピクロロヒドリンを経由するグリシジル化合物と、ホスゲンを経由する化学品にも、同様の塩素分が含まれる場合があります。原料と製法の確認が欠かせません。
加水分解性塩素は、電気的な特性の低下や金属部材の腐食、製造時の反応への影響などを引き起こす要因です。主な影響を5つの観点から解説します。
樹脂中の塩化物イオンなどのイオン性不純物は、電気特性に影響します。半導体封止用エポキシ樹脂では、硬化樹脂中の塩化物イオン濃度の違いによって、電気特性や耐湿信頼性に差が生じます。吸湿後の高温tanδ(誘電正接)は、こうした差を示す指標です。
※参照元:J-STAGE「硬化促進剤の半導体封止用エポキシ樹脂信頼性に及ぼす影響」(熱硬化性樹脂 9巻4号)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/networkpolymer1980/9/4/9_183/_article/-char/ja)
樹脂中の塩化物イオンなどのイオン性不純物は、水分の存在下で移動し、絶縁抵抗を低下させます。高温高湿環境では漏れ電流が増加し、電子部品の誤作動や故障につながります。
塩化物イオンなどの塩素系不純物は、水分と共存すると金属の腐食を促進します。半導体のアルミ配線や銅製のリード線が腐食すると、断線や接触不良が発生し、部品の機能が損なわれるでしょう。封止材の内部で腐食が進むと、外部から発見しにくい点も問題です。
半導体や電子材料は、微細な配線や狭い間隔で配置された電極を使用します。そのため、微量のイオン性不純物でも配線間の電気的な挙動に影響し、腐食や絶縁性の低下による故障につながります。封止材の内部で劣化が進むため、外部から原因を特定しにくい点も問題です。
イソシアネート中の加水分解性塩素は、ポリウレタンの反応性や製品の品質に影響します。触媒の働きが阻害されると、反応速度や硬化状態にばらつきが生じ、製品の品質が不安定になるでしょう。また、製品の変色につながる場合もあります。
JIS K 1603-3は、加水分解性塩素をメタノールと反応させて塩化水素を生成させ、滴定できる塩素化合物の量を求める原理です。測定は次の流れで進めます。
適用範囲や注意点は次のとおりです。
エポキシ樹脂など他の材料では、対象に合った別の試験方法を使い分けます。
※参照元:kikakurui.com「JIS K 1603-3:2007 プラスチック-ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験方法-第3部:加水分解性塩素の求め方」(https://kikakurui.com/k1/K1603-3-2007-01.html)
一律の数値はなく、用途や製品ごとに異なります。○ppm以下なら問題ないと断定はできません。
結晶性エポキシ樹脂では、ハイドロキノン型、ビスフェノール型、チオエーテル型など骨格ごとに、加水分解性塩素の規格値が異なります。品番ごとの数値は次の表のとおりです。いずれも代表的な数値で、保証値ではありません。
| 品名 | 骨格 | 加水分解性塩素(ppm) |
|---|---|---|
| YDC-1312 | ハイドロキノン型 | 630以下 |
| YSLV-70XY | ビスフェノール型低塩素タイプ | 200以下 |
| YSLV-80XY | ビスフェノール型 | 500以下 |
| YSLV-120TE | チオエーテル型 | 520以下 |
ポリウレタン塗料用の触媒に関する特許には、使用するイソシアネートの加水分解性塩素を100ppm未満、より好ましくは30ppm未満とする記載があります。許容値は、用途や配合、信頼性試験の結果を踏まえて決めるのが基本です。同じ樹脂でも、吸湿環境で長期間使う封止材のような用途では、求められる水準が変わります。
※参照元1:日鉄ケミカル&マテリアル「結晶性エポキシ樹脂」(https://www.nscm.nipponsteel.com/epoxy/kessho.html)
※参照元2:Google Patents「Catalysts for polyurethane coating compounds」(US20150322289A1)(https://patents.google.com/patent/US20150322289A1/en)
反応条件の見直しから蒸留・精製まで、加水分解性塩素を減らす5つの方法を解説します。
エポキシ樹脂では、エピクロロヒドリン由来のクロロヒドリンを脱塩化水素して閉環させる工程が、塩素分の残り方を左右します。アルカリ量や温度、反応時間の見直しは、未反応の塩素化合物を減らす手段の一つです。条件を変えると他の特性にも影響が出るため、加水分解性塩素の値と合わせて確認します。
原料の純度や副生成物の発生量を管理すると、塩素分の持ち込みや生成を抑える効果が期待できます。イソシアネートでは、ホスゲン化の条件やカルバモイルクロライドの残存量が、加水分解性塩素の量に関わる要素です。原料ロットごとの分析値は、受け入れ時に確認するとばらつきの原因を追いやすくなります。
エポキシ樹脂を溶剤に溶かし、アルカリ金属水酸化物とスルホキシド化合物で処理したのち、水洗と濾過で塩素分を除く方法があります。洗浄後は水分が残らないよう、乾燥の工程も併せて検討する点がポイントです。
※参照元:Google Patents「エポキシ樹脂中の塩素除去方法」(JPS62187718A)(https://patents.google.com/patent/JPS62187718A/en)
イソシアネートでは、カルバモイルクロライドが分解する温度を大きく上回る温度で加熱し、不活性ガスで塩化水素を追い出す方法があります。ただしポリメチレンポリフェニルイソシアネートは熱で重合し、粘度が上がりやすいため注意が必要です。
※参照元:Google Patents「Process for reducing hydrolyzable chloride in toluene diisocyanate」(EP0497538A2)(https://patents.google.com/patent/EP0497538A2/en)
TDIを加熱処理したのち減圧蒸留し、加水分解性塩素を0.106%から0.01%程度まで下げた例があります。一方で、蒸留だけでは一部しか除けず、沸点が近い場合は分離が難しいのが実情です。熱に弱い材料では、減圧蒸留や薄膜蒸留など、熱履歴を抑える手法が用いられます。塩素分を含む留分を分けて取り、製品側の含有量を測定しながら条件を調整します。
※参照元:Google Patents「Process for reducing the hydrolyzable chlorine content of organic isocyanates」(US3219678)(https://patents.google.com/patent/US3219678)
加水分解性塩素の許容範囲は、材料や製品の用途によって異なります。含有量の数値だけで判断せず、使用環境や求められる性能を踏まえて評価することが重要です。
原料の選定から製造、最終製品の評価まで、品質への影響を把握し、用途に合った管理につなげることが求められます。
蒸留には、薄膜蒸留、精密蒸留、水蒸気蒸留、分留など、さまざまな蒸留手法があります。蒸留の目的や対象の化学品や溶剤によって適切な蒸留方法が異なるため、自社工場に合ったパートナーを選ぶことが非常に大切。金属イオンや残留物を基準以下に蒸留精製できないと、製品の品質やコストにも関わるからです。
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